2010年9月10日
スウェーデンにおける電磁波過敏症の現状と政策
電磁波過敏症は1980年頃から世界的に急増しているハイテク病です。スウェーデン政府は 早くから電磁波過敏症患者を機能障害者として、保険治療を実施しています。
ところが、我が国では経済を最優先する余り、高圧送電線・携帯電話などの端末や通信
放送用電波塔・オール電化住宅などが無制限に急増し、体調不良や不安を訴える人々が増え続け
ています。常に ”科学的根拠”という言葉で事態を曖昧にし、科学的に有害性が確実でないから
安全と見なすといった暴挙は、被害の拡大をもたらし、取り返しのつかない結果が懸念されます。
電磁波過敏症に対するスウェーデン政府、研究者、医師、市民団体などの取り組みを参考にし
今後の電磁波対策に活かせれば幸いです。
講師: マーチン・トンデル博士の紹介
トンデル博士は、スウェーデン,ヨテボリ大学サーレンスカ病院のお医者さんです。労働環境
医学の臨床医として、 EHS ( 電磁波過敏症)の患者を診察されながら、ヨテボリ大学の医学生に
EHS の講義をしておられます。また、スウエーデン政府の「電磁波問題に関する厚生委員会」の
コンサルタントを勤められています。 EHS を調査している他の研究者と連絡し合いつつ、
スウェーデンの政策に関して、他の政府機関、へルスケア部門の専門家、一般公衆、 NPO団体
などと意見交喚をしておられます。
8 月末に韓国で開かれる疫学の国際会議に参加される機会に合わせて、大阪まで講演に来て
頂きました。
◆会 場:大阪市立 弁天町市民学習センター
◆講 師: マーチン・トンデル博士 (Dr. Martin Tondel)
◆通 訳: 今中哲二氏
(京都大学原子炉実験所)
●主 催:電磁波・環境関西の会、電磁波環境研究所
●共 催:(50音順) 安全食品連絡会、ガウスネット・
電磁波問題全国ネットワーク,鎌倉の電磁波汚染の
改善を目指す会、こどもと電磁波、新東京タワー
(東京スカイツリー)を考える会、自然環境センター、
スカパー巨アンテナに反対する住民の会、全日農
京都府総連合会、中継塔問題を考える九州ネット
ワーク、電磁波と健康を考える会・みやぎ、
VOC-電磁波対策研究会
|

交流会後の記念撮影 |
トンデル博士の講演会は盛況で105名が参加しました。北海道、沖縄、関東方面からも医師、議員、
ジャーナリスト、フリーラーターなども多数参加されました。スウェーデンはEU加盟国ですが、
独自のシステムを構築しEHS(電磁波過敏症)やMHS(化学物質過敏症)の患者をサポート
したりケアーする体制が整っています。
講演の概要を下記に説明いたします。
先ずトンデル博士が日本に来て驚いて写真を撮りまくったのは、市街地に高圧線が随所に走って
いたことです。スウェーデンでは高圧鉄塔の建設は郊外に制限されており、送電線は撚り合わして 磁場強度を低減してから地下に埋設しているので、磁場の強度は非常に低くなっています。 電力会社は高圧送電線の敷設には最大限の配慮をしているとのことです。
高圧送電線から発生する磁場の急性影響についてはWHOの勧告に従って0.4μT(4mG)以下として
います。ヨテボリ市の中心部を測定し、磁場強度を色分けした分布図では0.2μT(2mG)以下は緑色、
0.2μT(2mG)以上は黄色、1μT(10mG)以上を赤色で図示しています。市外地の大半は緑色で0.4μT
(4mG)を超える地域は全体の1%ということです。
ICNIRPのガイドラインは参考値に過ぎず、スウェーデンだけでなくEU(欧州共同体)はそれぞれに
規制を強化しています。EUはICNIRPのガイドラインは余りにも緩すぎると酷評しています。
日本では、2008年から(財)電気安全環境研究所内に電磁界情報センターを設立し、電磁界の
安全性を各地で講演していますが、このセンターの管理職4名中2名が関西電力と東北電力からの
出向社員です。「中立な立場から、電磁界に関する科学的な情報をわかりやすく提供する」を
センターの理念としていますが、何をもって中立と言うのか意味不明です。このセンターは政府・業界の
広報機関の役目をしておりICNIRP(国際非電離放射線防御委員会)のガイドラインを導入し、
関東は100μT(1000mG)、関西は83μT(830mG)のトンデモナイ数値を法制化しようとしているわけです。
本来この数値は、変電所や高圧送電線などの電力設備に対するガイドラインですが、市民団体や
環境問題に精通している国会議員等の反対で未だ法制化されていません。
しかも電化製品に対する規制値は、いまだに議論すらされていません。
ところが電力会社や電気機器メーカーは、この数値が既に法制化されているとして虚偽の説明をし、
市民の健康不安を払拭する手段に利用しています。IH調理器などの強磁場でも規制値内で安全だと
言いたいわけで、業界擁護のための組織であることは明らかです。
携帯電話の基地局からの電波については、ヨテボリ市の48地点で計測した数値が図示されています。
GSM900 周波数 900MHz 0.14mW/u (0.014μW/cm2) ICNIRP参考値の0.003%
GSM1800 周波数 1800MHz 0.04mW/u (0.004μW/cm2) ICNIRP参考値の0.0004%
3G(第三世代) 周波数 1900MHz 0.04mW/u (0.004μW/cm2) ICNIRP参考値の0.0004%
携帯電話だけでなくFMラジオ波、アナログTV波、デジタルTV波などの電波強度も計測しています。
携帯電話基地局から僅か6m離れた距離で1W/u以下になり15m程度で殆ど0W/uになっている図表を
見て驚きました。1W/u = 1μW/cm2ですから住宅街で0.014μW/cm2とか0.004μW/cm2という数値は
信憑性があります。
日本は高周波(電波や電子レンジ)の基準値もICNIRP(国際非電離放射線防御委員会)のガイド
ラインを採用し、最大1mW/cm2(1000μW/cm2)までは安全であるとした基準値を設けています。
日本では0.1μW/cm2以下の地域は極めて少なく、この原因は通信システムと通信速度の差ではないか
と考えられますが、トンデル博士はこの分野の専門家ではないので説明が得られませんでした。
欧米の通信システムは半径数十kmの範囲をカバーする大ゾーン方式(マクロセル)を採用しており、
日本は半径数百mの範囲をカバーする小ゾーン方式(マイクロセル)を採用しているので、このように
電波強度に大きな差が出てくるのではないかと思います。また電波の強度も速度に影響を及ぼします。
電波が強く、クリア(電波干渉がない)であれば通信速度は速くなります。逆に言えば通信速度を速く
するには電波強度を上げる必要があります。スウェーデンの第三世代の携帯(UMTS)は通信速度が
2Mbpsですが、日本の場合 第三世代(3.5世代を含む)はワンセグ対応(地デジ放送やデータ通信)なので
下り40Mbps以上の速度へと光通信並みの高速、大容量化へと移行しているのも高い電波強度が計測
される原因だと考えられます。
EHS(電磁波過敏症)については2009年にスウェーデン政府が調査した報告書が有ります。
一般人とEHS患者の健康調査です。最も顕著な症状は皮膚が熱くなったり、ひりひりするような
感覚はEHSが27%、一般人が2%。目がかゆく なったり ほてる人がEHSで22%、一般人で7.5%。
集中力の困難な人はEHSで25%、一般人で5.9%。その他(疲労、頭痛、吐き気、めまい)等は、
EHSの人は一般人の2倍強となっています。
EHSの症状は様々な原因が考えられるので、今のところEHSに特定した診断は行っていない
ようです。例えば化学物質(フエノール, 難燃剤、アマルガムの水銀)などの影響も考えられる
わけです。そこで、これらの体調不良を訴える患者に対してSOSFS(国家委員会)1998:3規則で下記の
5項目を一般的ガイドラインとして医療専門家に遵守を義務づけて国民の健康管理を徹底しています
医療の専門家へ告ぐ:
● 患者の訴えを真剣に受け止めて、信頼関係を育成せよ。
● 患者が様々な症状を説明するための時間を与えよ。
● 患者が訴える様々な問題や症状が真実で、想像ではないことを理解せよ。
● 患者の説明を尊重せよ。
● (患者は)あらゆる医療診療を受ける権利がある
スウェーデンの保健ネットワークのシステムは、(a)
中枢に厚生委員会があり、その委員会を
中心に(b)州、(c)州議会、(d)市町村などの自治体がそれぞれに連携を保ちながら情報交換を行って
います。州議会には医師なども参加しているそうです。
トンデル博士の講演後、VOC-電磁波対策研究会の加藤やすこ氏による国内の電磁波過敏症の
実態と新城医師による携帯基地局に因る被害状況の報告がありました。
スウェーデンのように国民の健康と福祉に最大限の配慮をし、国民と政府との間で強い信頼
関係が築かれている国が先進国と言われるわけで、経済活動を最優先した結果さまざまな環境汚染
の悲劇を繰り返している日本は、エコノミックアニマル(経済動物)と不名誉な称号を背負ったまま人間
には成り得ないのかと情けない思いがしました。
電磁波・環境関西の会
古本公蔵
|