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生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究

1. 詳細報告本文

独立行政法人国立環境研究所首席研究官
兜 真徳

1.はじめに
生活環境中の電磁界、とくに商用周波数の低レベル磁界の発がんリスクについては、小児白血病や脳腫瘍を
含むがんに対するリスクを示唆する米国デンバーでのWertheimer & Leeperらの疫学調査報告1)以後20年以上
にわたり、その可能性に関する研究が行われてきた。1992年にはスウェーデンにおける疫学調査で高圧送電線
周辺や屋内の磁界レベルが0.2μT以上で小児白血病のリスクが上昇することが報告された。
1996年に世界保健機関(WHO)は電磁界の健康リスクに関する環境保健クライテリアの改訂作業を行うため
「WHO国際電磁界プロジェクト」(1996~2000年、その後2006年まで延長)2,3)を開始し、その翌年、低周波磁界に
ついてはリスクが示唆されている高レベルの磁界曝露者が多い地域における小児白血病の疫学調査がさらに
必要と指摘した。その後、先行して進められていた米国のラピッド計画4)における健康リスク評価結果では、
2001年に出された国際がん研究機関(IARC)の発がん性評価”2B”と同様な結論が報告された5)
それらの評価の基本とされているのは、小児白血病の疫学調査において、住居の磁界レベルが0.2μTあるいは
0.4μT以上でリスクが上昇する傾向が示唆されていることが大きな根拠とされている。このことは、Ahlbomら6)
図3.診断日現在における調査対象家屋での「居住期間(%)」の概念図Greenlandら7)が2000年に行ったこれまでの
小児白血病の疫学調査結果を用いたプール分析の結果として、全体としてみると0.3μあるいは0.4μT以上で
リスクが2倍程度であったとの知見と一致している。一方、周知のように、米国のラピッド計画のまとめをはじめと
して、動物実験や細胞実験ではこの程度の低レベル曝露における影響は確認できないとされている。
なお、小児脳腫瘍については、小児白血病の研究に比較して、個々の研究間で磁界曝露指標を含め方法論にも
相違が大きく、現状では統一的なリスク評価結果は得られていない(Kheifetsら1999)8)
本研究は、家庭内での磁界と小児白血病及び小児脳腫瘍との関連を明らかとするために、我が国では西欧諸国
においてリスクが示唆されている0.2、0.3あるいは0.4μT以上の高曝露者が諸外国に比較して多いのかどうか、
人種等が異なる我が国においてもリスクがこれらの磁界レベル以上で上昇傾向を示すかどうか、さらに、量―反応
関係が見られるかどうかを調べることを目的とした疫学調査を計画し、本事業として実行された。

2. 方法

本調査は、15歳未満の小児に関する症例対照研究である。なお、本調査ではWHO国際電磁界プロジェクト等の
国際的な研究レビューに基づき、これまでの同種の疫学調査と比較して以下の調査手法の改善が必要と
判断された。

1.はじめに

生活環境中の電磁界、とくに商用周波数の低レベル磁界の発がんリスクについては、小児白血病や脳腫瘍を
含むがんに対するリスクを示唆する米国デンバーでのWertheimer & Leeperらの疫学調査報告1)以後20年以上
にわたり、その可能性に関する研究が行われてきた。1992年にはスウェーデンにおける疫学調査で高圧送電線
周辺や屋内の磁界レベルが0.2μT以上で小児白血病のリスクが上昇することが報告された。
1996年に世界保健機関(WHO)は電磁界の健康リスクに関する環境保健クライテリアの改訂作業を行うため
「WHO国際電磁界プロジェクト」(1996~2000年、その後2006年まで延長)2,3)を開始し、その翌年、低周波磁界に
ついてはリスクが示唆されている高レベルの磁界曝露者が多い地域における小児白血病の疫学調査がさらに
必要と指摘した。その後、先行して進められていた米国のラピッド計画4)における健康リスク評価結果では、
2001年に出された国際がん研究機関(IARC)の発がん性評価”2B”と同様な結論が報告された5)
それらの評価の基本とされているのは、小児白血病の疫学調査において、住居の磁界レベルが0.2μTあるいは
0.4μT以上でリスクが上昇する傾向が示唆されていることが大きな根拠とされている。このことは、Ahlbomら6)
図3.診断日現在における調査対象家屋での「居住期間(%)」の概念図Greenlandら7)が2000年に行ったこれまでの
小児白血病の疫学調査結果を用いたプール分析の結果として、全体としてみると0.3μあるいは0.4μT以上で
リスクが2倍程度であったとの知見と一致している。一方、周知のように、米国のラピッド計画のまとめをはじめと
して、動物実験や細胞実験ではこの程度の低レベル曝露における影響は確認できないとされている。
なお、小児脳腫瘍については、小児白血病の研究に比較して、個々の研究間で磁界曝露指標を含め方法論にも
相違が大きく、現状では統一的なリスク評価結果は得られていない(Kheifetsら1999)8)
本研究は、家庭内での磁界と小児白血病及び小児脳腫瘍との関連を明らかとするために、我が国では西欧諸国
においてリスクが示唆されている0.2、0.3あるいは0.4μT以上の高曝露者が諸外国に比較して多いのかどうか、
人種等が異なる我が国においてもリスクがこれらの磁界レベル以上で上昇傾向を示すかどうか、さらに、量―反応
関係が見られるかどうかを調べることを目的とした疫学調査を計画し、本事業として実行された。

2. 方法

本調査は、15歳未満の小児に関する症例対照研究である。なお、本調査ではWHO国際電磁界プロジェクト等の
国際的な研究レビューに基づき、これまでの同種の疫学調査と比較して以下の調査手法の改善が必要と
判断された。
1. 予想されるリスクが小さいことや0.4μT以上の高曝露集団が少ないことから調査対象者はできるだけ多数と
  すること(予想されるリスクが1.5倍程度、高曝露集団の割合が西欧諸国と同程度であれば症例は1000例
  程度必要となる)
2. 情報バイアスを最小限にするために対象症例は新規発症例とすること、
3. 曝露推定精度を上げるため、診断日から測定調査までの期間を短縮化すること、
4. 訪問面接調査と磁界レベルの実測すること、
5. 「寝室の磁界レベル」を長時間測定すること(日間および週間変動が大きいため1週間は最低必要)、さらに
  季節変動を考慮し、症例と対照の測定日を近づけること、
こうした基本的要件を考慮しつつ調査方法が決定され、訪問面接調査、環境測定等が実行された。
その具体的な組織や方法は以下のようであった。
2.1. 研究組織
本調査の分担研究者のリストは以下の通りである。なお、本研究の総事務局は国立環境研究所(代表:兜真徳)、
疫学調査の中央事務局は国立がんセンター(代表:山口直人)が担当した。また、地方事務局として、北関東は
自治医科大学、南関東は国立小児病院(現国立成育医療センター)、関西中部北陸は富山医科薬科大学と
京都大学、中国四国は広島大学(ただし、2年度目以後)、九州は産業医科大学が担当した。各担当機関における
分担研究者は以下の通りである。
国立がんセンター研究所 (山口 直人)
自治医科大学 (中村 好一)
富山医科薬科大学 (鏡森 定信)
京都大学大学院医学研究科 ( 島 茂)
広島大学医学部 (烏帽子田 彰)
産業医科大学 (溝上 哲也)
国立小児病院 (齋藤 友博)
東京女子医科大学 (久保 長生)
鹿児島大学医学部 (秋葉 澄伯)
国立環境研究所 (兜 真徳、新田 裕史)
徳島大学工学部 (伊坂 勝生)

2.2. 症例と対照の選択

2.2.1. 小児白血病

本研究における小児白血病の新規症例の発生情報は、次の5つの小児がん治療研究グループを通じて
収集された(図1)。それらグループは、@東京小児がん研究グループ(TCCSG)A小児癌・白血病研究
グループ(CCLSG)B東北小児白血病研究会 C小児白血病研究会(JACLS)およびD九州・山口小児がん
研究グループ(KYCCSG)である。これら5つの治療研究グループの参加施設は、総数245であった。
対象とした症例は、先行研究との比較可能性を考慮し、急性リンパ性白血病(ALL)および急性骨髄性白血病
(AML)の初発例(年齢15歳未満)のみに限定した。以下、それぞれALL、AMLと呼ぶ。なお、それら白血病および
その病型の診断は、末梢血および骨髄検査における形態学上、免疫学上、細胞学上および分子遺伝学上の
特徴に基づいて行われている。
上記5治療研究グループから収集された新規症例は、それらの関連病院が全国に分布していることから、
最初に全国レベルでリストを整理し、次いで、訪問調査と磁界の直接測定を行う調査対象地域(以下、
キャッチメントエリアと呼ぶ。)、すなわち5つの地域ブロック(東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、北九州、福岡の
大都市を含む18都府県)内の症例を選出し、調査協力依頼をすることにした(図1)。キャッチメントエリアを設けた
主な理由は、調査者(面接員および環境測定員)の移動範囲の限界と調査効率の向上である。なお、上記
キャッチメントエリア内の18都府県に居住する小児人口(0〜15歳)は、2000年現在、全国の2,000万人のうちの
1,070万人(53.3%)であった。
1999年から2001年の間に5つの治療研究グループから報告された小児白血病(ALL とAML)の新規症例は
計1439名であった。これらの症例報告時には症例の住所などは不明であったため、各グループの関連病院の
担当医を通して1,069名の症例に調査協力(この段階では郵送調査か問診調査かは未定)を依頼した。
そのうちキャッチメントエリア内の症例は791名であり、他の648名のうち278名は住所がキャチメントエリア外の
症例、370(648-278)名は研究資源や人的・物理的な制約から依頼できなかった症例(キャッチメントエリア内54名、
同エリア外311名、年齢不詳など5名)であった。 
訪問調査協力を依頼したキャッチメントエリア内の791名のうち、391名の参加承諾が得られた。
ただし、参加承諾が得られた症例391名のうち70名は診断後転居(25名)、機材の故障(5名)、時間がとれなくなり
中止(8名)、郵送調査へ変更依頼(22名)および診断日が対象期間外であった(10名)のため解析対象から
除外された。 参加者(症例の家族)への事前調査説明が行われた後に、対照候補者を、症例と性、年齢および
居住地域をマッチング(年齢は4歳未満の症例では±25%、4歳以上では±1歳以内、また、居住地域は同じ地域
ブロック内で市町村人口規模(4区分)が同一)させて選出した。なお、これら対照候補者リストは、調査に先立ち、
地域を多段層別無作為抽出した自治体の住民基本台帳から無作為に123,000名を選んで作成したものである。
すなわち、対照候補の選定は住民基本台帳の閲覧・転記作業の効率を考慮して、多段抽出により、1次抽出
単位は「区市町村」、2次抽出単位(町村部は省略)は「町名」、3次抽出単位を「個人」として実施した。まず、
設定されたキャッチメントエリア内の区市町村を人口規模と地域性を考慮して4つに層別した。具体的には、
政令指定都市は単独の層として、区を1次抽出単位とする。総人口20万人以上の市については原則として
単独の層とする。総人口20万未満の市部については隣接する区市を50km圏を目途にひとつの層とする。
町村部については郡を単位として同様に50km圏を目途にひとつの層とする。各層からの1次抽出区市町村数は
15歳未満の人口数に比例して決定し、全抽出数がキャッチメントエリア内の区市町村数の15%となるように、
無作為に抽出した。抽出された1次抽出単位の区市町村について住民基本台帳の閲覧手続きを行った。次に、
2次抽出単位(町村部は1次抽出単位)毎に系統抽出により15歳未満の子供の対照候補リストを作成した。
2次抽出単位数は選択された区市内の町名数の30%とした。抽出間隔は当該層の期待症例数に基づいて、
0〜4歳における各性・年齢階級の対照候補者数が20名を越えるように決定した。1次抽出単位の区市町村毎に
全体では15歳未満の子供600名(性2階級×年齢15階級×20名)が抽出された。この対照候補者リストの中から、
性、年齢および居住地域層が同一の者を無作為に1症例当たり10候補抽出し、調査協力を郵便により依頼した。
なお、最初の依頼に対して未反応の場合の督促依頼は3名の対照が得られるまで最大4回行った。
3,833名の対照候補者へ調査依頼が行われ、1,097名(28.6%)の参加承諾が得られた。そのうち、訪問面接調査と
磁界測定が完了したものは634名であった。解析対象となった症例321名のうちの9名が、対照634名のうちの
31名が、マッチングセットが成立しなかったために条件付ロジスティック回帰分析では除外された。
                                     図-1
                             図1. キャッチメントエリア
2.2.2. 小児脳腫瘍
本研究において症例候補者として登録された脳腫瘍症例は、診断時の年齢15歳未満で、全国の主要107病院の
脳神経外科ネットワークを通じて同定された者とした。調査期間内に324名が登録された。これらの者のうち167名
がキャッチメントエリア内に居住していた。調査協力は、担当医を通じて症例家族に対して依頼した。調査協力依頼
の対象であった167名のうち、実際に担当医から依頼されたのは72名であり、全員から参加承諾が得られた。 
したがって、参加率は実質的に100 %であった。なお、このうち、7名は診断日以降に転居したため対象から
除いた。さらに、9名はマッチングのとれた対照が得られず(うち3名は調査終了後に承諾してきた例、1名は
郵送調査を希望であり、これらの対照者候補の抽出は行っていない)、1名は病理検査から脳腫瘍ではないことが
判明したため除外され、最終的に条件付ロジスティック回帰分析の解析対象となった有効症例数は55名であった。
調査協力に承諾した症例の家族に事前調査説明を行い、調査への参加予定を確認できたところで対照候補者を
選定した。対照候補者リストは小児白血病の場合と同一のものを用いた。このリストから性、年齢および居住
地域層が症例と同一の者をランダムに10候補抽出した。そして、1症例につき3例の対照が得られるまで、郵便に
より最大4回、対象候補に対して調査協力依頼を行った。全体として692名の対照候補者へ調査依頼が行われ、
189名(27.3%)の参加が得られた。このうち90例はマッチングペアである症例が診断日以降転居等の理由
(具体的には、症例転居のためマッチング症例がなくなった(9名)、対照が4名以上となり郵送調査に変更
あるいは調査を中止(40名)、承諾後に中止あるいは郵送に変更したもの18名、対照者自身が転居していたもの
10名、症例が郵送に変更したため除外された者5名、測定機器の故障が1名、その他の理由6名であった)で除外
されたため解析から除いた。共同研究者の専門医が組織病理学的検査を行い脳腫瘍分類の確認等を行った。
解析対象の症例55例中、悪性度IVのものは12例、そのうち10例が神経膠腫(大脳、小脳、視床、脳幹)、
3例が奇形腫(傍鞍部、松果体、視床下部-下垂体)であった。悪性度IIIは2例で、2例とも神経膠腫であった。
なお、症例全体のうち、神経膠腫は悪性度IとIIを含め27例、頭蓋咽頭腫(傍鞍部)9例、その他(大脳血管腫など)
3例であった。なお、56例中3例は組織分類ができなかった(しかし、この3例は脳腫瘍による手術例であったので
解析対象には加えた)。

2.3. 訪問調査

訪問調査は小児白血病ならびに小児脳腫瘍について共通の方法で実施した。5つの調査地域(地域事務局)に
それぞれ1〜3人の訓練された面接調査員と環境測定員をそれぞれ配置した。訪問面接調査で使用した調査票は
留置用と面接用の2種類であり、留置用調査票は訪問日前に郵送して事前に記入を依頼し、面接用調査票は
訪問時に面接調査員が対象者の保護者(原則として母親)からの聞き取りによって記入した。
なお、留置用調査票の記入状況は訪問時に点検し、記入漏れ等の確認を行った。両調査票の項目として、
家族の既往症(受診歴)、妊娠期間から出生後罹患日までの居住歴、住居の形式、母親の学歴、対象児の
予防接種歴、母親および対象児の電気製品の使用状況、母親の対象児妊娠期間中におけるX線検査受診歴、
薬剤の使用、喫煙、飲酒、殺虫剤や他の農薬の使用、および、母親と父親の職歴等が含まれる。(添付資料参照)

2.4. 郵送調査

訪問調査対象外とされたキャッチメントエリア外の症例の一部について、担当医を通して調査協力依頼を行い、
承諾が得られた症例について、1人の対照者をマッチさせた調査を実施した。この場合、対照候補者は、訪問調査
のためにキャッチメントエリア内の地域から選択された対照候補者リストの中から、性、年齢および居住地域を
マッチング(年齢は4歳未満の症例では±25%、4歳以上では±1歳以内、また、居住地域は人口規模のみを一致)
させて、1症例に対して5名抽出し、依頼を行った。調査は、郵送により質問票(郵送用:添付資料参照)と磁界測定器
(Enertech社製、EMDEX-Lite)を宅配便で各世帯に送付し、磁界の1週間測定と質問票の記入が終了したところで、
宅配便で返送してもらった。有効症例数は、小児白血病111例と小児脳腫瘍10例で、それらの対照者数はそれぞれ
149と12であった。ただし、磁界測定をの協力が得られたのは小児白血病の症例50例、対照者73例、脳腫瘍では
症例5例と対照者5例であった。これらの「寝室の磁界レベル」が0.3 μT以上を示した症例と対照数はいずれも
0であり、訪問調査の対象者と同様なリスクに関する検討はできなかった。

2.5. 磁界等の測定

磁界等の測定は、訪問調査と同様に小児白血病と小児脳腫瘍の両調査を問わず共通の方法で実施した。
2.5.1. 磁界レベル測定は磁界測定器(EMDEX-Lite, Enertech社製(測定周波数帯域:40Hz〜1kHz)) (図2)により行った。
測定器の設置場所は対象児の寝室とした。設置位置は下記のスポット測定によって、50cm四方4地点の
測定値の偏差が10%以内であることを確認の上で決定した。訪問時に測定を開始し、訪問日から1週間後に
宅配便で磁界測定器を返送するように依頼した。なお、一部の対象世帯では対象児が日常最も長く過ごす
部屋(居間)についての1週間測定もあわせて実施した。
なお、これまでの兜ら10の一連の調査研究から、1週間の屋内の磁界レベルが比較的高い場合は、屋外の
電力設備(高圧送電線、配電線、変圧器など)や屋内の配線系統から発生する進入する磁界を反映している
ことが予想された。また、先行研究においても、同様な測定を行いそれらを用いて曝露指標を計算で求めている
場合などもあるため、以下のような対象家屋の内外の数地点における5分間のスポット測定を行った。測定器は
EMDEX-II( Enertech社製(測定周波数帯域:40hz~800Hz))(図2)を用いた。測定地点は対象児の寝室の中心
および就寝時の頭部位置、対象児が最も長く居る部屋の中心、一戸建ての場合には敷地境界の四隅
(「周辺磁界レベル」)および近接する電柱の磁場、集合住宅の場合には玄関ドアおよび玄関と反対側の窓
(「玄関磁界レベル」)である。さらに、高圧送電線から100m以内の対象家屋については可能な限り家屋から
送電線までの道路に沿って、距離別の磁界レベルを測定した。
これらの測定器による測定磁界レベルはいずれも3軸方向の実効平均値である。
Friedmanら9)、および、兜ら10)のこれまでの研究などから、寝室における磁界レベルの24時間連続測定平均値は
個人曝露量の良好な代替指標となることが示唆されているので、本研究における代表的な磁界曝露指標として、
小児の寝室における磁界レベルを1週間連続測定した時の算術平均値(以下、「寝室の磁界レベル」と表記する)
を用いた。1週間測定を選んだのは、日内変動のほか、週内変動(比較的高磁界レベルを示す高圧送電線近傍
などでは、週末に低下する傾向が見られる場合が多い)を考慮したためである。なお、これまでの疫学調査結果
との比較のため、1週間夜間平均磁界レベル(19時-7時)、1週間昼間平均磁界レベル(7時-19時)、日曜日平均
磁界レベル、水曜日平均磁界レベルあるいは1週間幾何平均磁界レベル、最大、最小レベル、50パーセンタイル
および90パーセンタイル値を求めた。 また、本研究では架空高圧送電線の電圧規格が22kV-500kVのものと
定義して、対象者の住居から100m以内に該当する高圧送電線があった場合は、住居からその送電線までの
距離をレーザー光距離測定器(Yardge Pro Model 20-1000, Bushnell Corp)により測定した。また、各対象者の
調査の際やGISを用いた解析には、電力会社10社から提供された高圧送電線の経路地図を用いた。
さらに、これまでのいくつかの疫学調査で示されている、妊娠開始から当該疾病の診断日までを「影響することが
疑われる期間 (period of inquiry)」とする考え方を採用して、家族の転居歴に関する情報に基づき、妊娠開始日
から診断日の期間に占める診断日現在居住している家屋での居住期間の割合を「居住期間(%)」と定義した(図3)。
なお、対照の場合の診断日はマッチングペアの症例の診断日を当てた。
                                     図-2
            図2.磁界測定、ラドン測定、ベンゼン測定に用いた機器を示す。
           右上は、送電線までの距離別の磁界測定を行うために用いられた機器である。
                                  図-3
            

図3.診断日現在における調査対象家屋での「居住期間(%)」の概念図

2.5.2. その他の環境測定

訪問調査した症例対照の一部については、磁界レベルのほか、屋内のラドン、環境放射線およびベンゼンの
測定を実施した(集計結果は、添付資料参照)。
環境放射線は、ガンマ線測定器(アロカ社製シンチレーションサーベイメータTCS-171)により、磁界のスポット
測定と同時に同じ測定個所について行った。ラドン濃度は対象世帯のうち、症例1、対照1について実施した。
ラドン濃度の測定はRadopot(77 Elektronika Ltd.製)を用いて、passive法により行った。このラドン測定器は
直径約35mm、高さ55mmの円筒形プラスチックの内部にCR-39検出器(10×10×1 mm)を含むものである。
このRadopotを各世帯の対象児の寝室に6ヶ月間設置し、その後回収して、検出器のアルファ線飛跡を計測し、
空気中のラドン濃度に換算した(Tokonami S. et al.)11)。ベンゼン等大気汚染物質の測定は、キャニスター(1.8 L)
を用いて対象世帯の対象児の寝室で屋内空気の捕集を行った。対象世帯は東京都および神奈川県内の
対象世帯に限定した。捕集時間は1時間で、寝室の中央、床面1mの位置で捕集した。捕集した試料は
ガスクロマトグラフにより、ベンゼン濃度を測定した。

2.6. 解析方法

小児白血病に関する症例対照研究では、白血病症例312名(ALL症例 251名およびAML症例 61名)および
対照603例(ALL対照495名およびAML対照108名)を解析対象とした。
磁界の低曝露群において、非線形の量-反応関係がある可能性があるので、はじめに、Greenlandら12)の方法
により、0.05μT間隔の「寝室の磁界レベル」と小児白血病リスクとの関連を解析した。この解析結果から、
より細かなカテゴリー化の必要がないことが示唆されたので、「寝室の磁界レベル」は、先行研究との比較を
容易にするために、0.1μT、0.2μTおよび0.4μTをカットポイントとしてカテゴリー化した。一方、小児脳腫瘍に
ついても、当初「寝室の磁界レベル」をカテゴリー化する際のカットポイントは、先行研究および今回の小児白血病
のリスク解析と同様に0.1μT、0.2μTおよび0.4μTとしていたが、対象者の分布に偏りがあったため、カットポイント
を0.05μT、0.2μTおよび0.4μTに変更して、4段階の磁界曝露カテゴリーによる脳腫瘍発症リスクの比較を行った。
また、0.3μT以上でもリスク上昇傾向が認められたため、カットポイントを0.05μTと0.3μTで3段階に分けた解析も
行った。なお、小児白血病と小児脳腫瘍のいずれの場合にも、交絡の可能性のある要因の影響については、
ロジスティック回帰分析モデルの中に共変量として含めた場合と含めなかった場合との比較によって、高い寝室の
磁界レベル」のリスクが影響されるかどうかどうかによって調べた。検討した主要項目は、母親の教育レベル
(質問では、小学校と中学校を含めた就学年数で聞いており、12年以下を高卒未満、13年以上を短大・大学卒
以上と定義した)、対象児の予防接種歴(小児麻痺、三種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風)、二種混合(ジフテリア、
破傷風)、麻疹(はしか)、風疹(三日はしか)、流行性耳下腺炎、MMR(はしか、風疹、流行性耳下腺炎)、水疱瘡、
日本脳炎、BCGの10種)、母親の喫煙歴、X線検査歴、電気製品・電子機器類(電気毛布、ホットカーペット、電気
あんか、電動ミシン、ヘヤードライアーなど、超音波加湿器、ヘッドフォン式CDやMD、ウオーターベッド(ヒータ式)、
電気掃除機、電気便座の10種のほか、テレビ、電子レンジ、電気時計、携帯電話等)の使用歴および妊娠中
あるいは妊娠前の殺虫剤の使用、子供の電気製品・電子機器類(電気毛布、ホットカーペット、電気あんか、
ウオーターベッド(ヒータ式)、超音波加湿器、ヘヤードライアー、子供部屋の寝室の照明、ヘッドフォン式CDやMD
など、あるいはヘッドフォンを使わないステレオ・ラジカセなど9種のほか、テレビゲーム、パソコン、電気時計等)の
使用歴、子供部屋の環境放射線である。また、一部の対象について測定した室内のラドン濃度やベンゼン濃度
についても検討した。 なお、プール解析を行った先行研究では母親の教育レベルを社会経済因子として、それを
調整因子とした解析をしているので、本研究でも母親の教育レベルを社会経済因子の指標として調整しつつ
「寝室の磁界レベル」のリスク解析を行うことにした。
小児白血病と小児脳腫瘍のいずれについても、条件付ロジスティック回帰分析法を用い、「寝室の磁界レベル」の
白血病もしくは脳腫瘍に対するオッズ比を求めた。解析プログラムにはSAS社PC-SAS(version8.2)のPHREG
プロシジャを用いた。調整オッズ比と95%信頼区間を求め、調整オッズ比(95%信頼区間:下限―上限)の形で示した。
なお、本報告における条件付きロジスティック回帰分析では、断りのない限り母親の教育レベルを調整した
オッズ比として示した。

3.結果と考察

小児白血病と脳腫瘍ともに、先行研究と比較して、診断から調査までの平均期間が1.1年と短縮化されたこと、
「寝室の磁界レベル」が1週間測定評価されたこと、また、同測定が同時に選択された症例と対照のセットについて
ほぼ同時(平均2.6日の差)で行われたこと、などの点が改善されており、各種の誤差の低減化に寄与している
ことが期待される。
3.1. 小児白血病対象者の基本的プロフィール(性別、年齢、父親と母親の教育レベル、母親の妊娠中の喫煙歴と飲酒歴、
居住地域の人口、商用周波数50Hzあるいは60Hz、住居のタイプ(一戸建あるいは集合住宅)、居住期間(%)、居住期間
(現住宅での居住月数)について、小児白血病全体、ALLおよびAML別に示した(表1)。結果、症例ではそれらの
対照より父親と母親の教育レベルがやや低い傾向があり、また、母親では妊娠期間中の喫煙率がやや高い傾向
があったが、いずれも有意な差は見られなかった。
本研究では「寝室の磁界レベル」を磁界曝露の指標としているため、その他の縛指標との相関を調べた。
「寝室の磁界レベル」と、子供部屋での1週間夜間平均磁界レベル(19時-7時)、1週間昼間平均磁界レベル
(7時-19時)、日曜日平均磁界レベル、水曜日平均磁界レベルあるいは1週間幾何平均磁界レベルとの相関は高く、
相関係数は0.94 以上であった。しかし、1週間の最大レベルとの相関は弱かった(r=0.14)。以上の結果を(表2)に
示す。 なお、対象者のうち、以下の解析でリスク上昇を示した「寝室の磁界レベル」が0.4μT以上の高磁界
曝露群においては、時間平均磁界レベルの1週間の変動に日内変動(時間変動)や週内変動(日変動)が
見られるか、あるいは持続的に高レベルが続くなど、電力設備や配電設備の近傍で一般に見られる特徴を
示していた(図4)。 測定器の近傍で電気機器を利用した時に測定されるような一過性の高レベル磁界が測定
されており、それによって高い「寝室の磁界レベル」となっていると思われる例は、小児白血病の候曝露群には
含まれていなかった。対象者の中で磁界レベルが0.4μT以上の割合は小さかった。症例の場合は1.9 %および
対照の場合は0.8%であった(表3)。
一方、磁界レベルが0.4 μT以上の場合の1週間の磁界レベルの変動を見ると、症例と対照いずれの場合にも
昼間に高く夜間に低くなる周期的変動を示していた。さらに、これらの群においては、一戸建ての場合では
「周辺磁界レベル」の中の最高レベル、また、集合住宅の場合では「玄関磁界レベル」と「寝室の磁界レベル」とを
比較すると各対象家屋の屋内磁界レベルと類似した値を示していた(表4)。 上述にように1週間の子供の寝室の
磁界レベルの変動パターンと組み合わせて考えると、高い寝室の磁界レベルには屋外の電力施設からの磁界が
全体的に寄与しているものと考えられる。
条件付きロジスティック回帰分析を行った結果を表3に示した。小児白血病全体(ALL+AML)を対象とした場合、
参照カテゴリー群(0.1 μT 未満)を基準とした調整オッズ比は、磁界レベルが0.1〜0.2μTの群 では0.94
(0.52 - 1.70)、0.2〜0.4μTの群 では1.09 (0.52 - 2.32)、0.4μT 以上の群では2.6(0.77-8.96)であり、
0.4μTまではオッズの上昇はみられず、0.4μT 以上の群で上昇する傾向が見られたが統計的に有意では
なかった。他の磁界レベルのパラメータについても同様な解析を行った結果、いずれの場合にも同様の傾向が
示された。さらに、ALLとAMLを分けて解析すると、ALLでは有意なリスク上昇を示していた(上記と同様な調整
オッズ比は、磁界レベルが0.1〜0.2μTの群 では0.94 (0.52 - 1.70)、0.2〜0.4μTの群 では1.09 (0.52 - 2.32)、
0.4μT以上の群では4.73 (1.14-19.7))であった(表5)。 AMLでは、「寝室の磁界レベル」が0.4μT 以上を示す
症例がいなかった(対照は2例あった)ことから、同レベルのリスクは0となり、上記の小児白血病全体についての
リスク上昇傾向はALLでの有意なリスクを反映していることが示唆された。 
図-4


図4:「寝室の磁界レベル」が0.4μT以上であった
           症例(上図)と対照(下図)の1週間の時間平均磁界レベル変動パターンを示す
           (なお、本図はALLの症例と対照について図示したものである)

次に、年齢を10歳未満、8歳未満あるいは6歳未満に限定した場合の「寝室の磁界レベル」のリスクを解析した
(表6)。 表4の高曝露群の個人別プロフィールからも明らかなように、10歳未満あるいは8歳未満に制限した
場合には、0.4μT以上のリスクは大きく上昇し、調整オッズ比はそれぞれ4.32 (1.00-18.7)および7.25
(1.36-38.5)と、全年齢群に比較して大きくなり、統計的にも有意となった。若年者においてリスクが大きい
ことは、カナダやドイツの先行研究でも指摘されており、若年者では屋内の磁界に曝露される時間が長いこと
や若年者では磁界に感受性が高い可能性などを示唆している可能性を示唆しているのかも知れない。
また、男女別の解析では、男子でリスクが高く、50Hzと60Hzの地域別では、50Hzの地域でのリスクが高い傾向
を示したが、これらの傾向の意義については、高曝露群が少なかった本調査の結果のみから判断するのは
困難である。さらに、居住期間(%)を限定した解析を試みたが、居住期間(%)が10%以上で「寝室の磁界レベル」
が0.4 μTの調整オッズ比は最大となり、さらに20 %以上あるいは40 %以上ではオッズ比はやや小さくなるものの、
ほとんど変化しないが、60 %以上では低下し、80 % 以上では0.4 μT以上の区分に症例は残るが、対照が
いなくなった。居住期間(%)を限定した場合にオッズ比が大きくなる傾向が見られることは、本研究における
磁界曝露推定法の安定性を示していると考えられる。ここでは、磁界曝露を[「寝室の磁界レベル」X
(診断までの居住期間)]と見なしているからである。
潜在的交絡因子が小児白血病(ALL+AML)のリスクに影響するかどうかをいくつか検討した結果を表7に示した。
潜在的交絡因子を投入したいずれのモデルにおいても、上記リスクに大きく影響しているものは見られなかった。
また、室内ラドンおよびベンゼン濃度の分布については、いずれも症例-対照間で差異は見られなかった
(添付資料中の比較データを参照されたい)。また、ALLに対する0.4 μT以上の「寝室の磁界レベル」のリスクに
対する同じ潜在的交絡因子の影響を調べてみたが、結果は同様に、同リスクはほとんど変化を示さなかった。
したがって、これらの交絡因子の影響はあってもきわめて小さいことが示唆された。
諸外国の先行研究では高圧送電線が近傍にあることが高い「寝室の磁界レベル」をもたらす主たる要因の1つと
考えられたことから、住居から最寄の送電線までの距離別に小児白血病のリスクを調べた。その結果、小児
白血病のリスクに関する調整オッズ比は、住居から送電線までの距離が100m超を参照カテゴリーとすると、
50-100mおよび50m未満のカテゴリーで、それぞれ1.56 (0.87-2.91)(症例22と対照30)と 3.23 (1.39-7.54)
(症例13と対照10)であった。同様に、ALLのみでは、それぞれ1.36 (0.70-2.65)(症例17と対照27)と 3.68
 (1.47-9.21)(症例12と対照8)であったことから、高圧送電線近傍でのリスク上昇が示唆される。なお、
「寝室の磁界レベル」が0.4 μT以上であった白血病の症例(すべてALL)6例のうち住居から最も近い送電線
までの距離が100m以内であったのは4例、対照では5例中2例であった。こうした傾向については、これまでの
送電線からの距離や”Wire Code”(送電線規格と距離を考慮して磁界レベルを示す指標)の白血病リスクに
ついて調べてきた先行研究の結果に相違があり、最近では、直接磁界レベルを測定しそのリスクを調べるように
なっていることとも関連するので、さらに解析が必要と考えられる。
本調査においても、これまでの多くの先行研究に対して指摘されてきたと同様にバイアスの影響を考慮しなければ
ならない。まず、症例の調査への参加率が約50%であったことから症例の選択バイアスが懸念された。この点を
検討するために、5つの小児がん治療研究グループの中で最も多い症例が登録された東京小児がん研究
グループにおいて、登録された白血病症例のうち非参加の理由について小児科担当医に対する聞き取り調査を
実施した。 その結果、依頼をしたが家族が拒否をした割合は非参加者のうちの24%(全体の12%)であり、
残りは治療が緊急を要していたため依頼できなかったか、担当医が家族に依頼するタイミングを得られなかった
ものであった。 つまり、担当医が依頼した家族に限れば約80 % ((62-12)/62)の参加率があったことになる。
したがって、選択バイアスが入る余地はあっても小さいと推察された。
その他、症例と対照の選択バイアスとして、住居から最寄の送電線までの距離が考えられた。すなわち、
高圧送電線が近傍にあることによって本調査への関心が異なり、そのために近傍ではその他の地域と参加率が
異なる可能性である。その点をまず対照群について検討した。つまり、調査への協力依頼をした全対照候補者
3833名のうち承諾の有無と送電線からの距離との関係を検討した。この場合の距離は実測値ではなく、
電力会社から提供された高圧送電線マップと数値地図(国土地理院)を照合して得られた送電線位置情報と、
調査参加依頼をした対象者の住所情報を緯度経度変換した位置情報をもとにGIS (geographic information
system)を用いて推計したものである。その結果、全対照候補のうち、承諾者では高圧送電線から100m以内に
居住していた者は12.4%に対し、未反応者では11.5%であり、有意な差はみられなかった。つまり、対照者については
少なくとも高圧送電線が近傍にあることが、その他の地域と比較して参加率が異なっている可能性は小さいことが
示唆された。他方、同様な検討を症例についても行いたかったが、参加しなかった人を追跡してインフォームド
コンセントを得ること自体倫理指針および個人情報の保護の観点から問題があると考えられたので。中止した。
そこで、症例の選択バイアスについてさらに検討するために、参考までに、白血病症例の非参加者の磁界レベル
は全て0.1μT以下であると仮定し、また、上述の検討から示唆されたように対照者のうちの非参加者の磁界レベル
の分布が参加者の磁界レベルのそれと同じであると言う前提ですべての対照候補者を対象とした場合について、
マッチングしないロジスティック回帰分析を行った。結果、調整オッズ比は1.4 (トレンドは有意:p=0.04)であり、
極端な仮定のもとでも正のリスクが残ることが示唆された。
            
                  表1. 対象者の基本的プロフィール ―症例と対照の比較―
                                    表-1

        表2. 「寝室の磁界レベル」とその他の磁界レベルパラメータとの相関
                                      表-2

     表3. 「寝室の磁界レベル」の小児白血病(ALL+AML)に対するリスク
                                  
表-3

     表4: 「寝室の磁界レベル」が0.4μTを示した対照と症例の個別プロフィール
                                 
表-4

     表5. 「寝室の磁界レベル」のALLに対するリスク
                                     表-5
    
表6. 対象者の年齢を制限した場合の、「寝室の磁界レベル」の小児白血病(ALL+AML)に
対するリスク
 
表ー6

表7. 潜在的交絡因子を調整した場合の「寝室の磁界レベル」の小児白血病(ALL+AML)に
対するリスク 
  
                                
表-7

3.2.小児脳腫瘍対象者の基本的プロフィール(性別、年齢、母親の教育レベル(質問では、小学校と中学校を含めた就学年数で
聞いており、12年以下を高卒未満、13年以上を短大・大学卒以上と定義した)、母親の妊娠中の喫煙歴、住居の
タイプ(一戸建てあるいは集合住宅)、居住期間(%)、現住宅での居住年数)を症例対照間で比較した(表8)。
母親の学歴が対照群でわずかに高い傾向を示したほかは、統計的に有意な差異を示すものはなかった。
また、出生時の体重および妊娠期間(出産週)にも有意な差は見られなかった(添付資料参照)。
「寝室の磁界レベル」と他の指標との相関は高かった。1週間幾何平均磁界レベルではr=0.84(p<0.001)、
1週間昼間平均磁界レベルではr=0.83(p<0.001)、1週間夜間平均磁界レベルではr=0.91(p<0.001)であった。
条件付きロジスティック回帰分析の結果は(表9)に示す通り、0.05μT未満の磁界曝露群に比較し、0.4μT以上の
曝露群でリスクが有意に上昇する傾向が示された。また、0.05μTと 0.3μTで3群とした解析でも、0.05μT未満の
磁界曝露群に比較し0.3μT以上でリスクの有意な上昇傾向が見られた。すなわち、調整オッズ比は0.05-0.3μT
で0.66 (0.27- 1.66)、0.3 μT 以上で6.56 (1.13-37.9)であった。
「寝室の磁界レベル」が0.3μT以上であった5名の症例と1名の対照について、住居から最寄の高圧送電線までの
距離を見ると、5名の症例と1名の対照のうち、3名の症例だけが住居から100m以内に高圧送電線があった
(表10)。 なお、居住地近隣の高圧送電線と脳腫瘍のリスクの上昇についての関連性は、住居から近傍の
高圧送電線までの距離が100m以上の群を参照カテゴリーとすると、50-100mでは1.39 (0.32-5.82)、50m以内
では1.63 (0.28-10.69)であった。 小児白血病の項で述べたのと同様に、選択バイアスの可能性に関連して、
調査依頼した対照者候補の参加の有無によって、居住地から高圧送電線までの距離に有意な差異は観察され
なかった。 なお、性別、住居形態あるいは地域による電力周波数区分(50Hzか60Hz)による潜在的なリスクの
修飾については、0.3μT以上の対照者の数が少なかったために検討できなかった。
潜在的交絡因子が上記「寝室の磁界レベル」のリスクに影響しているかどうかについて、可能性のある交絡因子を
条件付きロジスティック解析に共変数として投入して調べた。結果は(表11)に示すように、0.4μT以上のオッズ比
には大きな変化が見られなかった。
     表8. 症例と対照の基本プロフィール
                                表-8


     表9.「寝室の磁界レベル」の脳腫瘍に対するリスク―症例と対照をマッチさせた解析―
                                 表ー9


     表10.「寝室の磁界レベル」が0.4μTを示した対照と症例の個別プロフィール
                                    表-10

     表11.潜在的交絡因子を調整した場合の、「寝室の磁界レベル」の小児脳腫瘍に対するリスク
                                   表-11

    3.3. まとめ
   本調査により得られた小児白血病と小児脳腫瘍の症例・対照データについてリスク解析を試みた。
   その結果、「寝室の磁界レベル」、すなわち子供の寝室の1週間の平均磁界レベルを磁界曝露指標とした場合、磁界曝露の特徴や、それの小児白血病と小児脳腫瘍に対する
   リスクについて、以下のような点が示された。
  1. 1) 対照群において「寝室の磁界レベル(1週間平均値)」が0.4 μTを超える割合は約1%であり、これまでの同様な疫学調査で1〜3%程度とされている諸外国に比較して
    少ない傾向であった。ただし、この数値はキャッチメントエリア内の対照者に限定された、また、症例の年齢分布を反映した値であるので、全国人口の平均的な値ではない。
  2. 1) 「寝室の磁界レベル(1週間平均値)」の小児白血病(ALL+AML)に対するリスクは0.4μT 付近までは上昇傾向はみられず、0.4μT 以上のみで上昇する傾向を示し、
    調整オッズ比は2.63 (95%信頼区間:0.77-8.96)であった。この傾向および0.4μT 以上の調整オッズ比の大きさは、Ahlbom (2000)6) が行ったこれまでの小児白血病の
    疫学調査結果のプール分析結果(0.4μT 以上の調整オッズ比は2.00)とよく一致していた。なお、小児白血病をALLとAMLの小児白血病を分けて同様な解析を行うと、
    ALLのみが0.4μT 以上でより大きなリスク上昇を示し、調整オッズ比は4.73 (95%信頼区間:1.14-19.7)で有意であった。
  3. 1) 高圧送電線の距離が50m以内の小児白血病に対するリスクは、100m以上を基準とした場合に有意な上昇を示した。ただし、「寝室の磁界レベル」が0.4μT 以上の症例
    および対照について近傍の高圧送電線からの距離をみると、100m以上のものが含まれていた。
  4. 1) 小児脳腫瘍についても、小児白血病の場合と同様、「寝室の磁界レベル」が0.3μT以上あるいは0.4μT 以上でリスクが上昇する傾向が見られた。
    なお、症例数が白血病よりかなり少なく、誤差変動が白血病よりも大きい可能性がある。
  5. 1) 小児白血病および小児脳腫瘍について示されたリスクに対する潜在的な交絡因子やバイアスの影響について種々の検討を加えたが、いずれもそれらのリスクを
    大きく変化させるものは見られなかった。ただし、観察された「寝室の磁界レベル」が高かった対象者は少なく、ここで検討できなかったその他の要因によるバイアスの
    大きく変化させるものは見られなかった。ただし、観察された「寝室の磁界レベル」が高かった対象者は少なく、ここで検討できなかったその他の要因によるバイアスの
    可能性は否定できないと思われる。
以上、これまでの諸外国の疫学調査と比較して方法論的に改良された本調査により、とくに小児白血病については、さらにプール分析などを通して国際的なリスク評価に貢献できる
データが得られたと思われる。この種の調査は方法論的にすでに限界に近いと言われており、再調査は相当困難となっている。生活環境中磁界についての今後の国内における
諸研究にも広く役立てて頂くことを期待しつつ本研究報告を終えることにする。

4. 謝辞

本調査研究は、ひとえに、ご参加頂いた症例および対照のご家族、症例の担当医の方々、全国の関連病院および小児がん研究グループ、さらに関連学会など多くのご協力ご支援のもとに
実現できたものである。また、高久史麿委員長はじめ総合研究推進委員会のメンバーの先生方、諸外国の関連研究者、とくに米国NCIのLinet博士、Kalorinska研究所のAhlbom博士、
WHOのKheifets博士に研究推進への支援や相談などご協力を頂いた。記して 御礼申し上げる。

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